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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)168号 判決

控訴人 京都信用保証協会

右代表者理事 松尾賢一郎

右訴訟代理人弁護士 寺田武彦

被控訴人 株式会社 東京都民銀行

右代表者代表取締役 田中保一郎

右訴訟代理人弁護士 上野隆司

同 高山満

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

《省略》

理由

一  京都中央信用金庫が本件手形を所持していたことの認定、原宿ニットが本件手形を振出し、右金庫が本件手形を呈示したところ、被控訴人が支払いを拒絶したこと等当事者間に争いのない事実、被控訴人が右支払拒絶をするについて不渡届を提出しなかったことの認定(以上原判決九枚目裏二行目から同一〇枚目表八行目まで)、本件仮処分の実情及び被控訴人が本件手形の支払いを拒絶し不渡届を提出しなかった経緯の認定(以上同一二枚目表末行から同一七枚目裏三行目まで)は、原判決理由説示のとおり(ただし、同一六枚目裏六行目の「証人国仲仁」の次に「当審証人江森行雄」を加える。)であるから、これを引用する。

二  被控訴人の本件手形の支払拒絶ないし不渡不提出の違法性について

1  請求原因一項3(四)(1)、(2)の主張に対する認定判断は、原判決理由説示(同一七枚目裏六行目から同一八枚目裏八行目まで)と同一であるから、これを引用する。

2  請求原因一項四(3)の、原宿ニットから支払委託の撤回があったとしても、被控訴人が不渡届けを提出せず、または異議申立金を預託せしめないで支払拒絶をしたことが違法である旨の主張について判断する。

手形交換所が手形取引上重要な機能を果たし、したがって、手形、小切手(以下約束手形に限定する。)の交換に関する手続き等を定める手形交換所規則(以下規則という。)及び細則も、手形交換所の機能を正常に発揮するために重要な意義を有するものである。そして、規則に定める不渡処分制度は、手形関係者に多大の影響を及ぼす社会的制度となっているから、手形交換所に加盟する金融機関が右規則、細則を遵守し、不渡処分制度の運用にあたっては過誤の無いことを期すべきであることは言うまでもない。しかしながら、右規則、細則は、本来、手形交換所に加盟する金融機関相互の関係を規律するものであって、手形の支払担当者である銀行と手形所持人との間の権利義務関係を規律するものではなく、不渡処分に関し金融機関が右規則、細則に違反するところがあったとしても、それがため、直ちに手形所持人に対し責任を負担する性質のものではないと言うべきである。

本件において、被控訴人が手形交換所及び東海銀行に問い合わせたうえ本件手形について○号不渡事由に当たるものと考え、不渡届を提出しなかったことは前記認定のとおりであるが、《証拠省略》によると、当時本件のような場合、手形交換所内部においても必ずしもその取り扱いが明確ではなかったことが認められる(因に、銀行協会は昭和六〇年三月規則、細則を改正して本件のような場合の取り扱いを明確にしたことは当裁判所に顕著なところである。)。したがって、本件当時被控訴人の右取扱いが明らかに規則、細則に違反するとはいい難いのみならず、仮に右処理が規則、細則に照らし当を得なかったとしても、そのことが手形所持人に対する損害賠償義務を発生させるものとは解し難く、控訴人の右主張は採用し難い。

3  また、控訴人は、原宿ニットの当座預金残高が支払いに不足していたとすれば、支払委託撤回の申し出であったとしても不渡届けをすべきであるとも主張するが、不渡届提出を含む不渡処分制度が直接手形所持人の権利を保護するためのものでないことは前示のとおりであるから、控訴人の主張の理由のないことは前項説示と同様であって採用できない。

三  すると、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であり棄却を免れない。

四  よって、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 宮地英雄 横山秀憲)

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